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その指シリーズの番外編??

Found on Yahoo Actions. No idea if it was actually released by Kannagi-sensei or not. Still looking for information.

幸せの音色

「あれぇ、渉ちゃん。ちょっと焼けたんじゃない?」
 開口一番、妹の花鈴が浮かれた声を出す。肩から下げていたボストンバッグを玄関の上がり口にドサッと下ろし、渉はやれやれとため息をついた。
「あのなぁ、花鈴。無事に変え得てきた兄に向かって、いきなりそれかよ」
「ねぇ、おみやげは?おみやげ!」
「…人の話、聞いてんのか?」
 あくまで無邪気な様子にドッと疲れを感じてしまい、それ以上口を動かす気力も出ない。スニーカーを雑に脱いだ渉はバッグから小さな包みを取り出すと、わくわくしながら覗き込んでいる花鈴の目の前へ「ほら」と突き出した。
 満足そうに受け取る彼女を置いて、さっさとキッチンへ向かう。架月と別れるのは名残惜しかったが、そこを堪えて夕食に間に合うように帰ってきたのだ。だが、料理もまだ途中のようだし、共働きの両親の帰宅はもう少し遅いだろう。(先に風呂にでも入ろうかなぁ)などと考えていたら、花鈴がご機嫌な顔でやってきた。
「ありがとう、渉ちゃん。これ、あれでしょ。シーザーだっけ?」
「シーサーだよ。行っておくけど、架月と二人からだからな」
「わかってる。だって、このセンスって渉ちゃんにはないものだもんねぇ」
「う……」
 憎たらしいセリフを吐いて、花鈴は小さな対の置物を証明の下で透かして見つめている。手のひらに収まってしまう小ささの、ガラス製のシーサー。那覇の国際通りにある店で、裕壱が見つけた物だ。若い女の子には熱帯魚やイルカなどを形どったデザインが人気だったが、変にマンガっぽくデフォルメされていない透き通った守り神には他店では見かけない品の良さがあった。
「こういうのって普通に安っぽくなっちゃうけど、さすが架月さんだよねっ」
「ま、まぁな…」
「じゃあ、架月さんにありがとうって言っておいてね。どうせ、電話するんでしょ」
「…………」
 何もかもお見通しなセリフに、もう苦笑いをするしかない。裕壱も帰宅したばかりでバタバタしているだろうし、遠慮して寝る前にメールでも送っておこうかと考えていたのだが、本当は声が聞きたかったのだ。なんだか、電話の口実を貰ったような気持ちになって、渉はいそいそと自分の部屋へ向かう事にした。


机の時計を見ると、時刻は午後七時ちょうど。少し早めの家庭なら、そろそろ夕食を囲む時間帯だ。今日はお土産を渡すために実家へ帰ると言っていたから、もしかして食事中かもしれない。携帯を睨みつけながら、渉はベッドの上でしばし迷った。
「なんだかなぁ…別れてから、まだ一時間しか立ってないのにな…」
四日間、ずっと一緒にいったせいだろうか。今、自分の隣に裕壱がいないのが、渉には不思議で仕方がない。浅香の登場や祥平の爆弾宣言など、ゆっくり二人きりを満喫したとは言い難い日々だったが、それでもひととき『学生』という肩書きを外して裕壱を過ごせた時間は、今までに味わったことのない新鮮な喜びに満ちていた。
「来年の春から、一緒に住もうか…か」
 ギュッと左手を握られて、呟かれた一言が忘れられない。
「まったく…あいつって、ほんと突然なんだよな。まいるよ、もう」
 あの時の裕壱を思い出すと、渉はそれだけで鼓動が高鳴ってきた。初めに指輪を取り戻しにきたときも、いきなりキスをしてきた時も。いつでも、裕壱は強引で偉そうで一方的だった。そうして、どんなにこちらが反発しようと、結局は思うように事を運んで行ってしまう。そんな彼が、珍しく穏やかに素直な声音で切り出してきた言葉は、渉の胸にかつてないほど甘く深く染み込んでいった。
「架月と、ずっと一緒に…」
 現実感が湧かないのと照れ臭いのとで、その先がどうしても口に出出せない。第一、まともに誰かと恋愛するのも今が初めてなのに、その相手とずっと一緒にいられなんて奇蹟を簡単に信じてしまってもいいのだろうか。
「いや…いいんだよ」
 誰に言うともなく、渉は呟いた。
 そうだ。自分が恋愛しているのは、あの架月裕壱なのだ。見栄っぱりでプライドが高くてオレ様で、そのくせ本当は笑ってしまうくらいに純粋で。自分より数段大人の兄へ向かって、「あんたより上を行ってやる」と行ってのけてしまう真っ直ぐな彼。そんあ裕壱に求められている限り、きっと奇蹟は続いて行くに違いない。
「それには、俺も価値ある男になんないとな」
 よし、と渉は決心も新たに大きく頷く。
 今回の沖縄旅行は、単なる受験前の気休めだけではなかった。もっと心の深いところで、お互いの思いが確認し合えたような気がする。
 先刻まで感じていた淋しさが、少しずつ渉のなかで愛しさに変化して行った。しばらくは裕壱に恋しがりながら、その気持ちすら大切に育っていこう。そう思った。
「―と」
 不意に、手の中で携帯が鳴り出す。慌ててフリップを開くと、そこに裕壱の名前が点滅していた。渉は思わず顔をほころばせ、ひとつ深呼吸をしてから電話に出る。最初の一言は、もう心の中で決めていた。
『もしもし…渉か?』
 耳に心地よく流れ込む、裕壱の甘く端正な声。
 渉るが微笑んで口を開きかけた瞬間、まるで合わせたかのように言葉が重なった。
「会いたいな、架月―」
『会いたいな、渉―』
 一瞬の間があって、同時にまた二人は笑い出す。
 それは、春の約束を近づける幸せの音色のように聞こえた。

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